2022年7月2日(土)に北海道小樽市のおたる水族館において、聴覚過敏の方に配慮した「音のない水族館」が開催されたことをご存知でしょうか?
関連する動画や写真は、北海道放送のYouTubeや、一般社団法人小樽観光協会にアップされていますのでご覧ください。
当協会では、おたる水族館で営業推進担当の梅津さんに「音のない水族館」開催への想いや苦労された点、新たなご発見を、オンライン取材しましたので皆様にお知らせいたします。
ー全国的にも珍しい、「音のない水族館」に取り組まれるきっかけをお伺いできますか?
2019年9月に障がいのある子どもさんを持つお母さんからいただいたメールが始まりでした。メールの内容は、「5歳になる息子がいます、水族館がとても好きなのですが、唯一イルカショーを見る事が出来ません。聴覚過敏という障がいがあり大きな音や音楽を聴くとパニックになってしまうのです。このメールはそれに対して何かしていただきたいという事ではありません。ただ、そういう子どもたちがたくさんいる事を知って頂きたいのです。」というものでした。このメールを見て、スタッフ一同が思ったことは何とかこの息子さんにイルカショーを見てもらうことは出来ないだろうかという事でした。これが「音のない水族館」取組みへのきっかけでした。
ー聴覚過敏の子どもたちも安心して楽しめる”音のない水族館”ですが、初めてお取り組みされて苦労した点はありましたか?
子どもさんを含めて聴覚過敏の方にとって、どういう環境を作ったら安心して水族館を楽しんでもらえるかという事でした。最初に現場スタッフとも話し合い、館内にあるスピーカーからの音、イルカやトドショーでの音楽やMCの音声も全て消すことにしました。ただ、これだけで大丈夫なのかなと思いました。また、イルカショーやトドショーでも動物たちがジャンプやダイビングをした時には大きな音が発生します。これらの音は問題ないのかとも考えました。こういった事を、一つ一つ検証していきました。他の悩みとしては通常の営業の際、落とし物や迷子さんの案内等を館内放送で行っているのですがこれも全て消してしまうと、連絡はどうしたらいいかということがありました。
ー検証というと実際に聴覚過敏の方に現場に来てもらって・・・ということをされたんですか?
メールを頂いたお母さんとお話をして、閉館後の時間帯に子どもさんと一緒に来館いただきました。実際に館内の音、ショーの音や音楽を消して、見て(聞いて)いただきました。その上で、我慢できることやそうではない事を教えていただき、本番に向け対策を考えました。また、落とし物や迷子さんの案内は館内のサイネージ(電光掲示)を利用して表示する、スタッフがメッセージボードを持って館内を走る事として音のない状態でもお伝え出来るようにしました。
ー当日来場された方は何名ぐらいでしたでしょうか?また、その反応を教えていただけますか?
私たちも、聴覚過敏の方がどのくらい来館されたか知りたいのですが、正確な数は把握出来ていません。メールをいただいたお母さんの子どもさんもそうですが、外見からは全く判断出来ません。子どもさんに聴覚過敏の障がいを持つママ友のグループがあり、メールを頂いたお母さんから「音のない水族館」があるとグループの皆さんに発信いただき複数来館いただけていたと後になって分かりました。また、当日館内ではイヤーマフ(耳あて)やヘルプマークを付けた子どもさんを通常より多く見かけました。他に、今回は聴覚過敏の方を対象として実施いたしましたが、音が聞こえない聴覚障がいの方も多く来場されていたことが、身障者手帳を利用して入館いただいていることから分かりました。聴覚過敏の方だけではなく聴覚障がいを持たれている方皆さんが楽しんでいただけていたらありがたいと考えています。
ー広報をするにあたっては、どういったアプローチをされたんですか?
実施前に、新聞・テレビ等の各メディアさんに連絡をしました。取上げていただいたのは地元新聞の北海道新聞と北海道放送の2社でした。北海道放送(TBS系)で放送後に全国ネットのJNNニュースでも取り上げられました。
ー今回初めて開催したことで、課題はありましたか?
原因となる音をなくしたことで、パニックを起こされる方はいらっしゃいませんでした。また他の心配としては、音が一切ないことに対して一般のお客様からクレームが来るのではないかということがありました。大きな告知もできていないので、当館ホームページや水族館入り口に大きく“本日、音のない水族館”の掲示をいたしました。また駐車場では、駐車される方へご説明をし、理解を頂いたうえでご入場いただきました。そうしたこともあり、クレームなく終えることができました。
ーニュースだとわからなかったんですが、一般の方も普通に入場ができる日だったんですね。
メールを頂いたお母さんからは、「一般の人と区別なく、同じところでショーや水族館を楽しむことが一番大事」と伺っていましたので、敢えて来場者を限定しませんでした。また、館内には「ヘルプマーク」の啓発ポスターを掲示し一般のお客様にも理解を深めていただけるようにいたしました。
ー今後のご計画をお伺いできますか?
今後も継続して実施をしていきたいと思います。今年は2回の実施でしたが、来年度は4~5回実施出来ればと考えています。
ー今後も是非、継続的な開催を目指してお取り組みされることを応援しております。
~取材を終えて~
初めての開催にあたり、試行錯誤のうえスタッフ一丸となってお取組みをされたこと、これは我々も非常に学ぶべき点が多いと感じました。みなさんはいかがですか?
取材をしていて印象的だったのは、「一般の人と区別なく、同じところでショーや水族館を楽しむことが一番大事」という聴覚過敏の子どもさんを持つお母さんからのメッセージでした。まさにユニバーサルデザインの考えです。当協会としても音のユニバーサルデザイン実現に向けて、お母さまのような想いを持つ人に寄り添い、少しでも社会が良くなるよう地道に活動を推進してまいります。
一般社団法人国際調音・整音協会(ISAAA)は、活動を支援して下さる賛助会員様を募集しております。皆様の志をお待ち申し上げます。